成人期精神科での知的障害の治療について

知的障害

成人期の知的障害で精神科を受診する場合、治療や支援の主な目的は次の3つです。

※主にご家族・施設職員向けの内容となっています。

1. 福祉サービス利用のための書類作成

  • 障害年金や障害者手帳、作業所・施設の利用には、診断や生活状況を示す書類が必要です。
  • 精神科では、必要な書類を整え、支援を受けやすくするために受診します。

2. 生活上の困りごとや行動の支援(治療薬)

知的障害の方は、感情の高ぶりや不安、混乱などによって生活に困ることがあります。

  • 緊張や不安で落ち着きにくい
  • 言いたいことがうまく伝えられず混乱する
  • 見通しが立たないと不安や混乱が強くなる

など

精神科では、こうした困りごとを和らげ、生活を安定させるために薬が使われることがあります。

使用されることがある薬の例

抗精神病薬(リスペリドン、コントミンなど)
  • 気持ちや行動を落ち着かせる鎮静効果
  • 睡眠を助ける作用もあるため、夜間の安定に使われることもある
抗不安薬(レキソタンなど) 不安や緊張を和らげる
睡眠薬(フルニトラゼパム、ゾルピデムなど) 寝つきや睡眠の安定を助ける
ADHD様の注意や衝動性の問題に対する薬(インチュニブなど) 落ち着きを助ける場合

※薬は知的障害そのものを治すものではなく、生活しやすくするためのサポートです。

3. 経過観察と生活サポート

  • 定期的に体調や生活の困りごとを確認し、困難が増えていないかチェックします。
  • ご家族や施設職員の困りごとも含めて支援方法を考えます。
    例)ご家族が介護や見守りで疲れている場合、対応の工夫や福祉サービスの提案
    施設での対応方法や、行動が落ち着く環境作りの助言
  • 困っていることや不安なことは遠慮せず医師やスタッフに相談してください。

療育手帳の有無、発達特性の強弱での対応の違い

療育手帳を持つ方の中でも、成人期では知的障害の特性が強い方と発達障害の特性が強い方がいます。

知的障害中心の方

  • 生活全般の支援や行動の安定が中心
  • 鎮静や安定化を目的とした薬が使われやすい(リスペリドン、コントミンなど)
  • 支援は生活介護や施設入所、就労支援型作業所などが中心

発達障害の特性が強い方

  • 注意力や衝動性、社会性の特性への対応が中心
  • ADHD様の薬(インチュニブなど)や不安・睡眠の安定を目的とした薬が使われることが多い
  • 支援は環境調整や自立支援、就労移行支援などが中心で、生活全般の支援は比較的少なめ

療育手帳がない方(見過ごされてきた知的障害の方)

  • まず心理検査などで知的障害の確認が必要です。
  • 診断や書類作成、福祉サービス利用までに時間がかかる場合があります。
  • 障害が見過ごされてきた期間の生活上の困難にも対応します。
  • 精神科受診では、診断・支援の優先順位を確認しながら、生活や支援方法を一緒に考えていきます。

このように、同じ療育手帳の有無にかかわらず、知的障害の中で発達障害の特性が強いかどうかで処方薬や福祉サービスの重点が変わることを理解しておくと、家族や施設職員としての対応も整理しやすくなります。

軽度知的障害と統合失調症の違いと治療の考え方

軽度知的障害の方の中には、対人関係の難しさや感情の不安定さ、行動の変化などが見られることがあります。
これらの様子が統合失調症と似て見える場合もあり、診断の判断が難しいことがあります。

鑑別が必要な理由

知的障害と統合失調症は、もともとの成り立ちや支援の方法が異なります。
知的障害は生まれつきの認知機能の遅れに基づくもので、学習や社会生活の支援が中心になります。
一方で統合失調症は、思春期以降に幻聴や妄想などの精神症状が出てくる病気で、薬物療法による安定化が必要です。
また、診断によって利用できる福祉制度(療育手帳・障害年金など)が異なるため、正確な評価が大切です。

実際の診療では

ただし実際の臨床では、「どちらか一方」ときれいに分けられないことも少なくありません。
知的障害のある方が思春期以降に精神症状を起こすこともあり、発達の特性と精神症状が重なって見えることがあります。

そのため当院では、

  • 発達の経過や生活の変化を丁寧に確認し、
  • 知能検査・心理検査を用いて認知や感情の状態を把握し、
  • 現れている症状や生活上の困りごとに合わせて治療を進めること

を重視しています。

治療と支援の進め方

幻覚や妄想、不安や興奮がみられる場合には、抗精神病薬などを慎重に使用して症状を落ち着かせます。
一方で、知的障害に伴う理解の遅れや環境のストレスによる混乱が中心の場合は、薬よりも生活環境の調整や支援体制の見直しが効果的なこともあります。

治療では、薬の効果と副作用を見ながら、ご家族や支援機関とも情報を共有し、診断だけにとらわれず、実際の症状と生活の安定を目標に進めていきます。

利用できる福祉サービスの例

障害者手帳 福祉サービスや医療費助成に必要
障害年金 生活費や医療費の支援
就労支援・作業所 働く練習や軽作業を通じた社会参加
生活介護・施設入所 日常生活の支援
訪問支援サービス(ホームヘルパーなど) 生活上の困りごとのサポート
地域包括支援センターやケアマネジャー 支援内容の調整や相談

まとめ

成人期精神科での知的障害の治療は、生活を安全でスムーズに送るためのサポートが中心です。

  • 薬で気持ちや行動を安定させる
  • 福祉サービスを活用して生活を整える
  • 定期的な経過観察で問題を早めに把握し対応する

など

療育手帳の有無や、知的障害の中での発達障害特性の強さによって、支援内容や処方薬は変わります。
ご家族や施設職員は、困ったことや不安なことを遠慮せず相談し、一緒に生活環境や支援方法を考えることが大切です。