大人の愛着障害について

愛着障害

愛着障害とは、幼少期の親子関係や周囲の人との関わり方が影響し、大人になっても安心して人と関わることが難しい状態を指します。

  • 他人を信頼しにくい
  • 自分の気持ちをうまく伝えられない
  • 人間関係で強い不安や孤独感を抱く

これらの困難は、決して「心が弱い」から起こるのではなく、過去の体験が脳や心の働きへの影響としてあらわれているものです。

主な症状と日常への影響

  • 人との信頼関係を築きにくい
  • 孤独や不安が強く、人との距離感が難しい
  • 自己評価が低く、自分を責めやすい
  • 強い不安や怒りが出ることがある
  • 睡眠・食欲・体調に影響が出る

愛着障害の診断

他の診断と似て見えることも

大人の愛着障害は、症状の現れ方によってはうつ病や発達障害(特に自閉スペクトラム症=ASD)のように見えることがあります。

  • 強い孤独感や自己評価の低さ
    → うつ病の症状に似て見える
  • 対人関係の距離感の難しさや感情表現の偏り
    → ASDの「社会的コミュニケーションの特徴」に似て見える
  • 一定のパターンやルールを好む傾向
    → ASDと混同されることがある

そのため、詳しい問診やライフヒストリーの把握、心理検査を併用して鑑別することが重要です。
なお、WAIS(知能検査)AQ(自閉症スペクトラム特性の自己報告尺度)などを用いて、ASDや他の発達特性との区別を行う場合もあります。

愛着障害の評価・診断の考え方

大人の愛着障害はDSM-5などの診断マニュアルでは独立した診断名としては定義されていません。評価の中心は以下の通りです。

1. 詳細な問診とライフヒストリーの把握

  • 幼少期の親子関係や家庭環境
  • 長期間のストレスやトラウマ体験の有無

2. 現在の対人関係や情緒のパターンの確認

  • 他者との信頼関係の築きにくさ
  • 孤独感や見捨てられ不安
  • 自己評価や自己肯定感の傾向

3. 併存症や二次症状の評価

  • 不安、抑うつ、複雑性PTSDの症状
  • 感情のコントロールや日常生活への影響

4. 心理評価・質問紙の活用

  • 愛着スタイルの自己報告尺度(例:Experience in Close Relationships)
  • WAISやAQなどの心理検査でASDなどとの鑑別を行う場合もあります
  • 治療での目標や課題を明確にするためのサポート

DSMでの分類

現在の精神科領域のおける主要な診断基準の一つであるDSM-5では、大人の愛着障害は独立した診断名ではありません。しかし、愛着障害に関連する症状は、次のようなDSM-5の診断の枠組みで評価されることがあります。

  • 複雑性PTSD(C-PTSD)
    長期間のトラウマ体験で、情緒・対人関係・自己評価に影響が出ている場合
  • パーソナリティ障害(境界性・回避性など)
    対人関係や感情の安定が難しい場合
  • その他の精神疾患の付随症状としての対人関係困難

つまり、大人の愛着障害はDSM上では単独診断ではないが、困っている症状や対人関係の課題を中心に評価し、治療や支援方針を立てることが可能です。

なお、境界性パーソナリティ障害が全面に出ている場合、当院の医療体制では対応困難な場合がございます。

複雑性PTSDとの関係

複雑性PTSD(C-PTSD)は、長期間にわたる強いストレスや心の傷(トラウマ)によって生じる症状です。例えば、長期にわたる虐待やいじめ、家庭内での深刻な暴力などの体験が背景となることがあります。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)と似ていますが、複雑性PTSDでは長期間にわたるトラウマ体験の影響で、心や体の症状がより広範囲に現れることが特徴です。

愛着障害のある方では、長期間のトラウマやストレスによって複雑性PTSDの症状が現れることがあります。

  • 過去のつらい体験の記憶がよみがえる(フラッシュバック)
  • 不安や警戒心が強く続く
  • 感情のコントロールが難しい
  • 睡眠や体調に影響が出る

複雑性PTSDは、愛着障害の背景にあるトラウマ体験が形になった症状の一つと考えられます。

症状を和らげるために

愛着障害や複雑性PTSDの症状は、

  • 安心できる関係や環境を少しずつ増やすこと
  • 生活習慣や運動を整えて体を支えること
  • 症状に振り回されず、自分のペースで日常生活を送ること

で改善しやすくなります。
困っていることや生活上の課題に合わせた支援を受けることで、日常生活を少しずつ取り戻せます。

当院でできること

大人の愛着障害や複雑性PTSDでは、過去の経験が今の気持ちや人間関係に影響していることがあります。
当院の治療では、「今のつらさを和らげること」と「過去を整理して視点を見直すこと」を大切にしています。

薬物療法で今のつらさを和らげる

不安や落ち込み、眠れないといった症状を薬で整え、少し気持ちを楽にします。

カウンセリングで過去を整理し、今を見直す

カウンセリングでは、これまでのつらい体験を振り返り、今の自分はもう違う環境にいるのだと気づけるようお手伝いします。

薬で気持ちを支えながら、カウンセリングで過去を整理し、安心して今を生きられるようにしていく――それが愛着障害の治療の流れです。

加えて、必要に応じて生活指導による心身の状態の改善や、現在のストレスに対する診断書の発行を含めた環境調整により、症状の改善を図ります。

問題の解決には時間がかかることが多いです。また1回の診察でご満足いただけるだけのお時間がお取りできない場合もございます。あらかじめご了承ください。

大切なこと

愛着障害や複雑性PTSDは「心の弱さ」ではありません。
早めに相談し、支援を受けることで、少しずつ安心して人と関わり、日常を取り戻すことができます。